大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

千葉地方裁判所 平成3年(わ)1316号 判決

本籍

千葉県銚子市上野町三一八番地の六

住居

右同所

会社役員

佐一郎

昭和九年三月二六日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官綿﨑三千男出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役二年及び罰金五、〇〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から四年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、千葉県銚子市上野町三一八番地の六において、貸金業を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、利息収入の一部及び不動産譲渡収入を除外し、簿外預金を蓄積する等の方法により、その所得を秘匿した上、

第一  昭和六二年分の実際総所得額が八、七六九万三、八九三円、分離課税による短期譲渡所得額が一二一万三、四〇〇円であったのにかかわらず、昭和六三年三月一五日、同市栄町二丁目一番地一所在の所轄銚子税務署において、同税務署長に対し、昭和六二年分の総所得額が五五六万三、一三五円でこれに対する所得税額が五九万九、七〇〇円である旨虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額四、五二〇万七、九〇〇円と右申告税額との差額四、四六〇万八、二〇〇円を免れ、

第二  昭和六三年分の実際総所得額が一億四、六八一万六、六八二円であったのにかかわらず、平成元年三月一五日、前記銚子税務署において、同税務署長に対し、昭和六三年分の総所得額が七一六万四、一一一円でこれに対する所得税額が八九万二、〇〇〇円である旨虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額七、八四六万七、八〇〇円と右申告税額との差額七、七五七万五、八〇〇円を免れ、

第三  平成元年分の実際総所得額が一億六、八五一万三、六六七円であったのにかかわらず、平成二年三月一五日、前記銚子税務署において、同税務署長に対し、平成元年分の総所得額が八一六万四、一一一円でこれに対する所得税額が七五万七、四〇〇円である旨虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額七、九七三万二、〇〇〇円と右申告税額との差額七、八九七万四、六〇〇円を免れた

ものである。

(証拠の標目)

判示全部の事実について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する各供述調書(八通)

一  富樫桂子、渡邊眞知子(三通)、大網せつ及び星野春江の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書説明資料

一  検察事務官作成の電話聴取書

判示第一の事実について

一  押収してある昭和六二年分所得税の確定申告書一通(平成四年押第一二三号の1)

判示第二の事実について

一  押収してある昭和六三年分所得税の確定申告書一通(平成四年押第一二三号の2)

判示第三の事実について

一  押収してある平成元年分所得税の確定申告書一通(平成四年押第一二三号の3)

(累犯前科)

被告人は、昭和六〇年一〇月九日千葉地方裁判所八日市場支部で道路交通法違反の罪により懲役五月に処せられ、昭和六一年一一月一日右刑の執行を受け終わったものであって、右事実は検察事務官作成の前科調査及び昭和六〇年一〇月九日付け判決書(謄本)によってこれを認める。

(法令の適用)

被告人の判示各所為はそれぞれ所得税法二三八条一項前段に該当するので、所定刑中懲役刑及び罰金刑を併科することとし、その免れた所得税の額がいずれも五〇〇万円をこえるので情状により同条二項をそれぞれ適用し、前記の前科があるので刑法五六条一項、五七条により判示第一ないし第三の各罪の懲役刑にそれぞれ再犯の加重をし、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により判示の各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役二年及び罰金五、〇〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から四年間右懲役刑の執行を猶予する。

(量刑の理由)

本件は、三事業年度にわたり合計二億円余の所得税を免れようとしたものであって、その金額は多額であり、逋脱率は平均約九八・九パーセントに達している。その動機は、業者間の競争に勝ち抜くためや、子らに財産を残したいと考えたこと等によるが、本件における逋脱率や、その態様を勘案すると、自己の利益のためには手段を選ばないもので、格別斟酌すべきところはなく、その刑事責任は重いといわなければならない。

しかしながら、被告人は、本件発覚後に修正申告し、当然のことではあるが、逋脱にかかる本税分については既に完納しているほか、重加算税等についても、分割して月々支払うなど、十分に反省していると認められること、また、前記のとおり無免許運転行為による累犯前科はあるものの、平素は真面目に稼働していること等被告人に有利な事情もあるので、これら諸般の事情を総合勘案し、主文のとおりの刑に処することとした次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉田徹)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例